【vol.4】文京学院大学 助教授・渡辺行野先生

Interview-title2音楽を通して学ぶこと~音楽科教師の役割とは?~

 

vol.4
  渡辺行野(文京学院大学 児童発達学科 助教授)

学校教育の中で音楽の授業はどのような役割を担い、どんなことを教えられるのか…。
小中高の校種で教鞭をとり、現在は文京学院大学で保育士・幼稚園教諭・ 小学校教諭の養成に力を注いでいる渡辺先生に、“生きる力につながる” 音楽教育の在り方についてお話をお聞きしました。

学校教育の中でなぜ音楽の授業があるのか

 音楽の力を伸ばすことも大事ですが、『なぜ学校教育の中で音楽という教科を学ばなければいけないのか』 を考えていかなければならないですよね。 そういう意味では、各教科が共通してくる部分はたくさんあって、 『どういう人間を育てていくか』が最終的な狙いになってきます。
 音楽科の授業でも、ディスカッションやコミュニケーションを取る場面を多く作っていますが、 自分だけでは学べないことを他者と一緒に学ぶことによって深まるものは必ずあります。 自分では気が付かなかったこと、解釈できなかったこと、 分からなかったことが友達を通して多くの理解につながっていくことは非常に大切なことです。 まずは個を大事にして、グループでディスカッションした上で、また個で整理をし、 またコミュニケーションを重ねていく…。他者との学びの中でたくさんの場を作ってあげることで、 一人一人の考えにもより膨らみが出てくるのではないかと思います。

 他教科との横断的な学びについて

  音楽科として常に他教科との関わり合いを考えてくことも大事ですし、 我々は音楽を必要とされる教科にしていかなければならないですよね。 そのためも、この『他者との学び』を常に忘れないでいてほしいと思います。 一人でも音楽を学ぶことはできます。では、なぜ学校教育の中で音楽という教科があるのか。 それは、自分一人で学べないことがたくさんあるからです。
 『人と関わることがどれだけ自分の力になるのか』に気付けることは子どもたちにとって非常に大きいことですし 音楽の授業以外でも使える力ですよね。他教科でも同じことを目的としてやっていくことで、 また音楽の授業にも返ってくる。そういう教科横断的なものがとても大事になってきます。 各教科の特性を生かしながら、より横断的な部分になる力を常に意識しています。

渡辺先生の授業風景

 また、授業には常に道徳的な部分が含まれてくるかと思いますが、 音楽を通して人間的な力を学ばせたいなら、例えば作曲家の人物像を掘り下げて、 『その人物や人生を通して見えてくるものは何なのか』も伝えてあげたいですよね。 今は亡き偉大な芸術家たちが残した音楽という遺産は、 価値があるからこそこんなに長い時間残っているわけですから。 音楽だけではなく、その奥に含まれているものを見ていくような指導を心がけています。

 

本当の楽しさとは『進歩した学び』が得られたとき

 音楽の授業では、必ずしもスーパー技能を持った生徒を育てているわけではありません。 歌や器楽をまず楽しめること。ただ単に楽しむのではなく、『進歩した実感が得られるかどうか』ということです。 そこに至るまでには、当然つらいことも、難しいこともあります。 DVD「“生きる力”を育む鑑賞授業-音楽の基礎能力と人間力を伸ばす授業づくり-」でご紹介したアナリーゼ(楽曲分析)も、 最初はとても難しく、苦労する生徒もいたのですが、やっているうちに面白いと感じるようになっていきます。 その瞬間を是非大事にしてください。
 楽譜も最初はもちろん読めるわけではありません。でも『楽譜が読めないから難しいものは与えない』ではなく、 本物を常に与えることが大事です。音楽的要素や構造を色で分けたり、楽器で分けていくことで、楽譜を見るうちに、 音が読めなくても音楽全体を感覚的に視覚で捉えていくことができるようになります。 ですので、まずは耳と視覚が常に交差していくような授業を意識してみてください。
 また、グループでディスカッションした後は、必ず発表する場を設けています。 子どもたちは最初は緊張しますが、経験するうちに発表することに喜びを感じていくようです。 自分の考えに責任を持ち、皆の前で発表することで自信につながっていくからです。

自分の考えを皆の前で発表することで自信につながっていく

 

音楽を媒体に人生に必要なことを学んでほしい

 音楽教育には「音楽的な向上」と「人間力の向上」という非常に重要な役割があります。 この二つを常に意識した教材選び、授業の工夫、そしてその環境を作っていくことが大事ですよね。 具体的には、3年間を通して『共感的な子どもの育成』『身体で感じること』『音を媒介とした身体づくり』を行い、 教科横断的な学びをしていきながら、音楽にとって必要な力(音楽的な向上)と社会に出たときに必要な力(人間力の向上)を培っていきます。 この3年間の積み重ねによって音楽の幅が広がっていく…。そんな子どもたちを育てていきたいと思っています。
 人生には色々なことがあります。思春期の子どもたちは、それぞれ色々な想いを抱えています。 だからこそベートーベンの作品に触れることで親近感を覚えたり、人を通して人生の学びを得ることもあります。 音楽を通して、その背景にあるものを通して、音を媒体として人とコミュニケーションを取ることを通して、 たくさんの学びがあるのではないでしょうか。

 

■渡辺行野(文京学院大学 児童発達学科 助教授)PROFILE
小中高の校種にて教鞭をとり、各発達段階における豊富な指導実績を持つ。数々の授業実践の中で、幅広い音楽領域(歌唱・鑑賞・創作・器楽・伝統音楽など)の研究を進めている。歌唱・鑑賞教育を重視し、人間教育と関連させた音楽科教育や、小中連携研究のカリキュラム作成など様々な研究で業績を残している。また、ジャパンライムからDVD2作品を発売、楽しみながら無理なく力をつけていく指導方法が支持され、好評を博した。雑誌『教育音楽』で「教えてゆきの先生!生徒の心ときめく鑑賞授業」を連載中。2016年から、文京学院大学児童発達学科の助教に就任し、保育士・幼稚園教諭・小学校教諭の養成に力を注いでる。

 

コラム「ゆきの先生の音楽室」はこちら

 


 

☆渡辺先生の音楽授業は、こちらのDVDに収録されています☆

「 生きる力 」 を育む鑑賞授業 ~ 音楽の基礎能力と人間力を伸ばす授業づくり ~

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“おんがく”を愛する子どもを育てる!音楽授業における活動アイディア集 ~身体と声を結びつけ歌唱表現につなげる指導実践~

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