【vol.2】福工大城東高校吹奏楽部・武田邦彦先生

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vol.2
  武田 邦彦(福岡工業大学附属城東高等学校 吹奏楽部 顧問)

2007年に屋比久勲先生から吹奏楽部の指導を引継ぎ、9年目となった。
今年も全国への切符を手にした福工大城東高校吹奏楽部だが、
全国に行くことが宿命付けられている伝統校で、
毎年結果を残し続けるのは並大抵のことではない。
「上達に近道はない」と言い切る武田邦彦先生が考える城東サウンドの流儀とは…?

 

一番の理想は、歌っているような状態で
楽器が演奏できること

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―DVDには、先生のどのような思いが込められていますか?
 初めて吹奏楽の指導に携わることになった先生方や他教科の先生方に、ご自身の経験がなくてもこういう方法で練習していけば、合奏や曲作りまでできるのではないか、その一提案が出来ればと思い、撮影に臨みました。
 私は音楽の教員ではありますが、吹奏楽の経験が全くなく、3校目の福岡教育大学附属小倉中学校からたまたま吹奏楽に携わったわけです。それが、今から21年くらい前で。音楽を勉強してきた者にとっても、吹奏楽はいろいろな知識や指導方法を持っていないと、生徒たちと共に音楽作りができないので、とても苦労しました。

 

―中学校と高校で指導にどんな違いを感じますか?
 中学校では楽器の組み立て方や構え方など一から教えることができるので、3年間でこちらの目指すところまで高めることができますよね。城東高校で吹奏楽の指導をさせてもらって9年目になるのですが、高校では生徒たちはそれぞれ別々の環境で合奏したり、演奏の仕方を身に付けてきますので、吹き方を揃えて統一感を持たせることに力を入れています。

 

―武田先生は声楽出身でいらっしゃいますが、特に難しさを感じるのはどのあたりでしょうか?
 合唱と吹奏楽、同じ音楽なんですけれども、やはり吹奏楽は楽器を演奏するので、楽器独自の奏法技術を身に付けていなければ、自分の想いを込めて演奏することは難しいですよね。もちろん、合唱や声楽にも発声法がありますが、それは指導者が歌って示して、対象者である生徒に同じように声を出させて求めていくということで直結した感じがあります。でも吹奏楽の場合は、指導者と生徒の間に楽器という媒体がありますので、その楽器を響かせるために、もしくは音を変化させるために一つ壁があるわけです。そこから一つの音楽を創り上げるというのは、並大抵のことではありません。
 技術面のハードルを乗り越えなければ音楽を作り上げることができないので、そのあたりで一番苦労しました。そこで、様々な研修会に足を運んだり、いろんな学校にお邪魔させてもらって、練習方法を見学させてもらったんです。楽器奏法や基礎の基礎から見学して、自分で得たものを元に、現在生徒を指導しています。

 

―先生が理想とする音とは?
 実際、楽器を演奏する場合には、楽器と楽譜が必要になります。楽譜に指示されている通りに演奏する、合奏するのに、いくつものハードルを越えないと音楽が出来ないわけですよね。楽器や楽譜がすべて取りそろわれた状態で、歌っているような状態で楽器が演奏できれば、一番理想じゃないかなと思っています。
 ですから、基礎合奏の時に音階を覚えたら、教師がまず歌ってみて、「歌ったように吹いてごらん」という形に持っていく。もしくは、生徒たちに歌わせてみて、「歌った通りに吹いてごらん」と言ってみる。歌の場合は、楽譜は必要ありませんので、「楽器を構えていても持っていないかのような感覚で音を出すように」「自然に、心の底から音を出せたらいいね」という言葉を投げかけながらを投げかけてやっています。実際の曲では、楽譜が現れるわけですが、そのときに楽器を持たず自然な感じで音を出した感覚を、そのまま曲に持っていけたらいいですよね。

 

コンクールは『自分たちが成長するための材料』。
目指す音楽を見失わないように

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―基礎合奏が上手くても、曲になると…というバンドも多いですが、基礎合奏と曲作りを連結させるために行っていることはありますか?
 基礎合奏を生徒たちだけで行っている学校も多いと思いますが、中学3年間をベースにやってきていますので、それぞれの学校のやり方を持っているんですね。年も近く、同学年の中であーだこーだ言い出してしまうと、まとまりにくくなってしまう。それで私も基礎合奏から指導に入っているわけですが、その中で私が合図を送って音を出してみる。「こういった音色で音を出してみよう」など、いろんなアドバイスを加えることによって、曲づくりにつながっていると思います。
 例えば、パート練習は生徒同士で行っていますが、80人のバンドを一人の高校生がまとめていくわけですよね。できないことはないと思いますが、相当な耳を持っていなければ難しいと思います。また、自分もそれだけのレベルを持っていなければ、引き付けることが難しくなってきます。生徒にそれだけの責任を背負わせるのも酷だと思いますので、私が行っております。その中で、一人一人の演奏のクセなどを発見できますし、私なりのアドバイスを加えることができますので、基礎合奏の段階から指揮台に立って、生徒と一緒に音づくりをどのまま曲づくりにもつなげています。

 

―楽曲を指導する上で気を付けていることは?
 曲には起承転結がありますので、その中でいかに聴き手にとって心地よいものであるか。また、曲によってはハラハラドキドキしたり、ワクワクしたりだとか、そういうものがいかに自然な形で音として現れていくか。また最後の終結部分をどう迎えるか。そういったことを考えながら曲づくりを行っています。ですが、音取りの段階、初合奏の段階ではそこまでは無理ですので、初合奏では他の楽器との関係性、主役と伴奏を理解し、個人やパート毎に練習し、さらに合奏で確認する。合奏することが生徒にとっても最大の喜びなので、そこに持っていくまでの課程を大切にしながら、日々の合奏場での合奏でも楽しんでできるようにやっております。

 

―コンクールについては、どのようなお考えのもとで参加されていますか?
 吹奏楽コンクールについては、やはり臨み方によって生徒への対応も受け止め方も変わってくると思います。結果に振り回されるのではなく、コンクールは『自分たちが成長するための材料』として位置づけています。この学校も伝統校ですので、そういった使命を背負っておりますし、それから逃れることはできません。でも、コンクールの結果だけを追い求めてしまうと、部活動そのものの存在意義が揺らいでしまいます。それより、日々の練習の中で美しい音を発することを求めて、「今日はこういうところが良かったね」とか「いい合奏ができたね」と日々のお互いの成長を確認し合うようにして、コンクールという場では一年間積み重ねてきたものを発揮できるようにする。
 結果だけを追い求めてしまうと、全国大会で金賞以外は全てダメだったという考え方になってしまいますので、そうはならないように、自分がそれぞれ目標を示したところの音楽が表現できたかというところに焦点を置くことですね。それから、合奏隊としてみんなで協力し合って音楽作りができたか、お互いの音をよく聴いて音を出すことができたかを判断材料にしていく。あくまでも結果は結果ですし、審査員の方々が聴いて判断をくだしてくださるわけですが、それに振り回されず、自分たちの目標、目指すものを見失わないることが大事ではないかなと思っています。

 

瞬時に変わることもあれば、変わらないこともある。
それでも、生徒と一緒に模索していきたい

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―「練習のための練習」にならないために、指導者が気を付けることとは?
 どうしても毎日行っていると単調な練習になりやすいですが、その中でも生徒には「いい音を作れるように」と繰り返し伝えています。「凡事徹底」ですね。それから同じ注意を何十編、何百編とすることがあるよ、と。それこそ3年間一緒にやっていれば、耳にタコができるほど「しっかり息を入れて」「しっかり息を吸って」など、繰り返し言い続けることになりますよね。だからこそ、生徒には日々素直な気持ちで楽器演奏に臨むように伝えています。
 それから、バンド全体だけでなく、一人一人をよく見ること。全体の中だとバラつきがありますので、一人一人に的確なアドバイスをすることで全体も変わってくると思います。全体と個人の練習に対する指導のバランス配分を考えながらやってくこと、それぞれの課題に応じた練習を提示することが大事ですね。

―多くの部員を抱えていますが、一人一人の生徒に上手に向き合う秘訣はありますか?
 子どもたちに指導していく中で、こちらが知っている限りの練習方法、改善方法を伝えてあげても変わらないときがありますよね。どうしても癖が取れないとか、どうしても音程が合わない、息が長く伸びないとか。そういうときに、自分に課せられた宿題(課題)だなと思って、「先生も考えるが、あなたも考えてくるように」とお互い課題を残して持ち帰ります。帰宅途中に、こういった練習方法はどうだろうかとか、こういったアドバイスがどうなのかなど、思い浮かんだことを翌日、学校で生徒に試してみたり、発想の転換が大事だと思います。ダメなところで行き詰ってしまうと、本人が一番苦しいので、「こういうふうにやってみたら?」「こういう方法も試してみたら?」とヒントを与えられるかどうかですよね。もちろん、その場で瞬時に変わることもあれば、変わらないこともあります。でも、生徒と一緒に模索していくことが、とても大事だと思います。

 

―部員の皆さんの練習メモにも、「運命共同体」という言葉がたくさん出てきました。
 生徒たちにいつも言ってる「運命共同体」というのは、部員同士もそうですし、私もそうです。学校の様々な部活動の中で、一緒にステージに立って、生徒たちと共に演奏したり、コンクールに出たりと、合唱も同じですが、吹奏楽は特殊な部活動だと思います。例えば演奏して終わったとき、一人だけが褒められることはありません。総合的にトータルに見て「城東高校の演奏はこうだったね。」という感想を持たれますよね。そういう意味でも、一人一人の頑張りの集積によって、一つの「運命共同体」という意識を持って、自分が頑張らなきゃと思ってほしい。そういった意識を持ってもらうために投げかけている言葉です。
 私もその中の一員ですので、自分も努力することを忘れないように心がけています。どうしても指導者になると、生徒に言うばかりで自分が蚊帳の外にいるような気分になりますが、生徒に言っているよりも自分に言い聞かせているようなものなんですよね。同じステージに立つ以上、お互いの意識を高く持って、運命共同体として頑張っていきたいです。
 このDVDに収められていることは本当に一部分ですし、私もまだ勉強中の身ですので、偉そうなことは一つも言えないんですけれども、皆さんと共に吹奏楽を楽しむために、何か一つでも提案できればと思って、このDVDを撮影しましたので、どうぞご覧ください。

 

 

PROFILE
教員になって3校目の福岡教育大学附属小倉中学校から吹奏楽の指導に携わり、同校ならびに北九州市立沼中学校を率いて全国大会出場を果たす。また、選択教科の生徒と共に、全日本合唱コンクールに出場。2006年より、現在の福岡工業大学附属城東高校に音楽科教諭として赴任。翌年、吹奏楽部の指導を屋比久勲先生より引き継ぎ、全日本吹奏楽コンクール金賞を受賞。現在、吹奏楽講習会の講師やコンクールの審査員としても活躍している。日本高等学校吹奏楽連盟理事。

 

 

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