NEW!!【合唱 vol.1】市立松戸高校・小倉孝勇先生

 小倉孝勇先生は、長年、千葉県の公立中学校で合唱部の指導を務め、数々のコンクール出場・金賞受賞を経験されています。現在はその豊富な指導経験を活かし、同県の公立高校である松戸市立松戸高校にて教鞭を執られております。

 昨今、合唱だけに限らず、様々な業界でノウハウの継承が問題となっています。小倉先生ご自身も、長年培ってこられた技術を次世代に伝えきれていないと感じ、今回の撮影にご協力をいただきました。今作はそんな小倉先生の「特別なことはひとつも行っていない。このDVDをご覧いただいて、少しでも若い指導者の方や、指導に行き詰っている方の一助になれれば嬉しい」という思いを存分に収録。そして、このページでは本編Disc2のインタビューでは紹介しきれなかった小倉先生の特別インタビューの模様を紹介しています。それではご覧ください!

コンクールや文化活動での選曲について

― 小倉先生の考える、コンクール自由曲の選曲のポイントについて教えてください。

 コンクールの自由曲では、選曲がとても大切になってきます。選曲をする場合に、今は沢山の動画、演奏が動画サイト等にアップされているので、そういう中で沢山の曲を知っていく事も大切です。しかし「あの学校があの曲をやって良い成果が出たからその曲をやろう」という発想で選ぶと、上手くいかない事が結構あります。なぜかというと、それぞれの合唱団によって特徴が違うからです。この特徴にあった曲を選曲していくというのは、実は合唱部の活動の中でも最も難しい部分のひとつだと思います。

 生徒と一緒に選曲をしていく、あるいは指揮者である顧問の先生が選曲をしていくなど、いろいろなパターンがあると思います。どちらにしても、自分達の今年度のメンバーで表現出来る曲、あるいはこの表現だったら自分達でもやり易い、それから生徒達が共感出来る、そういった点で曲目を選んでいくことが、とても大切かなと思います。

 この曲が無難だなみたいな事については、生徒が必ずしも共感できるか分からないという問題が出てきますので、先生方のレパートリーの中で選ぶのではなく、生徒に合った曲をレパートリーとして与えるというのが良い選曲かなと思います。先生方の持っている曲の中から、今年はコレ、今年はコレみたいな、いわゆるレパートリーの使い回しよりは、今年度この子達に合った曲はなんだろうという事から先生方も一緒に考えていくのが、私の考える選曲のポイントです。


― 文化祭のどの文化活動ではどのように選曲されていますか?

 現代の生徒達は、他者からの評価というのを気にしています。SNSでも「いいね」が付けば嬉しいなど、そういったものを求めています。学校のメインイベントである文化祭で発表し、友達から良かったよと言われることは、生徒にとってとても嬉しいことです。

 「いいね」を貰うためにはどういう選曲がいいのかな? どんな演奏がいいんだろう? といった視点で選曲をすることがとても大切です。文化祭とか発表会で良い発表をすると、それを聞いた今まで合唱に興味がなかった生徒も、合唱に興味がわくことがあります。あるいは、見に来ている中学生や小学生が「ああ高校生だとあんな事やるんだな」「高校に入ったらやってみたいな」となる事もあります。
 生徒達は認められたいという気持ちがたくさんあります。ですので、そういった中で生徒が輝けるような選曲を考えていくというのは、とても大切だと思います。演奏の内容も勿論ですが、良い曲を選んであげることによって、練習に熱が入って良い出来栄えになるということは、学生達の間ではよくあることです。

 生徒がいいなと思う曲やアレンジ、今演奏したら聞いてくれてる人達が喜ぶのではないかという曲、それからスタンダードナンバーに道具や振り付けといったちょっとした工夫を加えて、色々な楽器でのアレンジを加えていくことによって、見る人達を新鮮な気持ちにさせる。そういった選曲がとても大切ではないかと考えています。



「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」

― 新しいガイドラインについて、先生の考えをお聞かせください。

 今、学校現場では、働き方改革、あるいは生徒の部活動の負担軽減という事で、文化庁から部活動に関するガイドラインが示されています。これは、罰則があったりとかそういった事ではなく、あくまでも「ガイドライン」という形になってはいるのですが、実際このガイドラインの中で部活動をやっていくということは、ある意味とても大切な事だと思っています。

 学校には部活をしに来てる訳ではなく、学業との両立、あるいは人間関係の形成、あるいは自分の個性を伸ばしていくということの為に、学校に通っている訳です。そのため、ある程度このガイドラインを遵守するのは大切な事だと、私も思っております。平日2時間、休日3時間、週11時間以内、色々な数字が出てきています。その一つである平日2時間をどのように利用していくか、これが上手くできるのはかなり練れた合唱団だと思っています。

 どうしても、譜面が配られて、なんとなくわからない状態でパート練習やってとなると、あっという間に2時間が経ってしまいます。しかし、やるべき事が事がハッキリしていたり、譜読みでも本編の中で提案したように順番が決まってたりすると「今日はコレをやろう」「明日はコレをやろう」「三日間でここまでやろう」という計画性が立ってきます。計画性があれば、平日2時間、休日3時間の中でも十分に曲が仕上がっていく。毎日の計画が立てやすいように、先を見通しながら、練習をさせていくということがとても大切です。


― まさに計画的に「凝縮」することがポイントになるということですね。

 2時間=120分。高校生が歌う曲はせいぜい一曲歌っても5分以内です。ですので、2時間という練習時間が短いなという発想ではなく、効率的に練習内容を凝縮していき、より計画性を高くしていくことによって、4時から6時まででもしっかりと成果が上がる練習が出来ると考えています。

 本校も夕方6時15分で練習は終わりにしています。延長はしていません。休日は、練習をする場合としない場合がありますが、基本的には午前中の練習という形で進めています。もちろん行事があったり、コンクールがあったりする場合には、多少延びたりしますが、テスト前とかには一切部活動は行っていません。ですので、年間90日くらいは部活をやらない日があると思います。そういった中で、より効果的に練習出来るようにという点で「計画性」と「効率性」が大切だと思います。今日やる内容をちゃんと示してあげることにより、必ず効果が上がる練習が出来ると思いますので、是非、その部分については生徒のリーダーと教員で、相談しながら練習計画を立てていく事が、このガイドラインをクリアしていく大切な要素になるのではないかと思います。


小倉先生のポリシー・伝えたいこと

― 普段の練習で特に気を付けていることを教えてください。

 発声練習の中で、特に大切にしている事がひとつあります。それは「生徒の喉のコンディションを保っていく」という点です。これは、とても大切な事です。高校野球でも、ピッチャーが球を投げすぎて肘や肩に負担がかかり、最終的に手術をする状況に追い込まれる事が沢山あります。それは、上手な生徒ほど出てくるものです。強い声を持ってる生徒が、毎日のように同じフレーズを何回も歌うという練習を繰り返していくと、同じ部分の声帯が擦れるようになり、そこの部分が腫れて結節が出来たり、酷くなったりするとポリープが出来てしまったりします。完全に固まってポリープになってしまうと、外科手術以外に治る方法がありません。こうなってしまっては、折角持っている声も全て台無しになってしまいます。

 こうならない為にも、生徒の喉のコンディションをいつも健康に保つという指導がとても大切になってきます。私は意図して練習をオフにするということが多くあります。ハードに歌った時、特別にホールで練習した時などは、意識の高い子ほど非常に喉を多く使います。この場合には、次の日をオフにしたり、二日間お休みにしたり、そういったこともよくあります。

 使った喉を休ませる為には、歌わない事しか回復方法はありません。コンクール前だとどうしても、他の学校が毎日練習してるのに自分たちだけ休んだら遅れてしまう、というような精神状態になってきますが、生徒にとっては喉のコンディションが悪い中で歌うのは苦痛でしかありません。教師による指導で喉の調子を見極め、それから「今日はちょっと喉の調子が悪いので、歌わなくていいですか?」ということが気軽に言えるような環境というのを是非作っていただければと思います。これは、若い先生でもベテランの先生でも大切なことだと思っていますし、私の大きなポリシーのひとつでもあります。これを守っていく事によって、効果的な練習がより生徒に定着してくるし、何よりも大きいのは「健康で豊かな声」を作り上げていくことができるという事です。是非、この点を考慮して練習に励んでいただければと思っております。


― 学生は無理をしがちなので、とても大切なことですね。それでは最後に何かメッセージがあればお願いします。

 合唱指導も含め音楽の指導は「音楽の専門家でないと出来ない」「音楽の教員免許が無くちゃいけない」「ピアノが沢山弾けなければいけない」「パッと聞いてその音が何か分からなくてはいけないとか」などなど、色々思われていることがあります。しかし自分自身、そのような特別な力は一切持っていません。今はスマートフォンをはじめ色々な機材があります。それから先輩の先生方もいらっしゃると思います。是非若い先生方には、積極的に音楽活動を生徒と一緒に取り組んで喜びを味わってもらえればと思います。

 中にはカリスマと呼ばれている先生もいるかも知れません。あの先生は凄いと言われる先生もいるかも知れません。自分は特別なこと、あるいは音楽を上手くする秘訣みたいな秘伝の技を持っている訳でもないです。基本的な事を、生徒が嫌がらずに、楽しんで好きになるということをコンセプトにやっています。「好きこそ物の上手なれ」という言葉がありますが、音楽については特にそれが大切だと思っています。生徒が楽しめる指導を、是非若い先生方も取り組んで、生徒の素晴らしい歌で、自分達も感動出来るようなそんな体験を若い先生にしていただければと思います。


小倉先生、貴重なお話を誠にありがとうございました!
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