NEW!!【合唱 vol.2】黒川和伸先生×幕総・伊藤善教先生

 現在、自身が指揮を務める合唱団・VOCE ARMONICAで数々の賞の受賞経験がある黒川和伸先生。そして名門・千葉県立幕張総合高校合唱団の顧問を務める伊藤善教先生。12月2日に発売となった「誰にでもできる!毎日30分からの発声練習」にご協力いただいたお二人に、コンクールや初心者指導、部活動の時間縮小や異動について伺いました。


コンクールに向けて気を付けていること

伊藤 声のコンディションを保ち続けるという事はとても大事なことで、例えば、冷房があったり、色々便利なものがあったりする中で、コンディションを崩してしまう生徒が結構多くいます。そういった日々のコンディション作り、声のコンディションであったり体調であったりを調整するにあたって、大切なことや喉をどのように守っていくか、何かアドバイスがあれば教えて頂けたらと思います。

 

黒川 例えば、テノール歌手のマリオ・デル・モナコは、とても沢山お酒を飲んでいましたが、公演前は一滴もお酒を飲まず、誰ともしゃべらずみたいな逸話があったり、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウが日本にツアーに来た時には、梅雨の時期だったため、普段とコンディションを合わせるためにすぐに空調をホテルの人に注文したりしたそうです。
 「歌はコンディションが大切」というのは、声楽家の人達が言う事なんですけども、 突き詰めていったときに何がコンディションに影響するのかというと、やはり演奏に向かう優先順位の高さと言いますか、その演奏を素晴らしいものにしたいという ”演奏家の意思” だと思います。
 ですので、同じ位のコンディションで、同じ部屋で、同じ歌を歌っていても、本番に対して凄くモチベーションが高くて、本番を絶対に成功させたい、少しでも良い演奏を聴いて下さる方へ届けたい、と思う歌い手は、プロであってもアマチュアであっても、本番に向けてしっかりとコンディションを調節していくと思うんです。 一方で、本番に向かう意識が弱い場合だと、どうしてもそういった方と比べてコンディションを崩してしまう事が多いです。

 大学時代の歌の師匠に「コンディション作りも実力の内です」と言われました。声楽科だと歌の試験が午前中に始まるかもしれないし、もしかしたら風邪を引いてしまっているかもしれない。 でも、その中でベストの演奏が出来るところも含めて実力なんですよ、という事を言われまして、学生の時にはそんな事言われてもと思っていたんですけども、社会に出て色々なプロの方とご一緒したり、自分自身もコーラスの指揮で演奏の現場に携わるようになってくると、ああ、このコンディション作りというのも確かに実力の内だなと。
 演奏へのモチベーション、優先順位の高さが実力として表れているのと思うと、そういった面も含めて幕張総合高校合唱団は凄いと思います。集中力も高いですし、体調の管理も素晴らしいと思います。

 

新しく合唱団に入ってくる人に教える際のポイント

黒川 小学生や中学生、新しく始める高校生もそうなんですけれども、初めてその学校で本格的なコーラスをするという時には、良くも悪くも白紙の状態で入ってくるので、手もかかりますが、その分教えやすいです。本当にゼロからですね、一から手取り足取り教えることで、確実に技術を身につけさせてあげらます。しかしそれが大人の合唱団となると、特別なOB・OGの合唱団でなければ、色々な場所から歌いに来ますので、もちろん良いところもありますが、そこまでの合唱経験での癖とかがあるので、私自身は、どちらかというとまっさらな状態で指導する方が、手もかかりますけれど楽といえば楽なんです(笑)

 そういったことを踏まえて、初心者より少しかじっていたり、ある程度発声を習得しているとなった時の方が、教え方は特に気をつけますね。 実際、幕総の合唱団でも高校から合唱を始める生徒さん、 県内だけでなく県外からも幕総で合唱がしたくて入ってくる生徒さんもいらっしゃると思うんですけど、その辺のご指導のコツがあれば聞かせていただけますか?

 

伊藤 コツと言うよりむしろ苦労になってしまうかもしれませんが、まさに今黒川先生がおっしゃった通りですね。 経験者の子はそれぞれ体験してきたことがあって、それが非常に良い体験であったから続けていると思う訳で、その積み重ねてきた体験を否定することは絶対にしてはいけない、というのは思っています。 ただ、幕総の中で作ろうとしているものと違う部分も当然あるので、その辺のところは本当に気をつけて、プライドを傷つけないように言葉を選んでというようにしています。

 生徒の中には、白と黒しかない、これは正しいこれは正しくない、この先生の言ったことは正しいこの先生の言ってることは正しくない、といった考え方を持っている生徒も結構います。こっち側にはこういう良いことがあって、こっちにはこういう良いことがあって、だからこの場ではこっちを使っていこうとか、そういう形で生徒が色々な価値観に対して理解を示せるように、経験者に対しては丁寧に話をしていきながら声を作っていきます。 もちろん初心者で入ってくる子もたくさんいるので、憧れて入って来てくれた子には、やはり憧れが無くならない様に話をしながら指導します。

 初心者はコンクールの練習ばかりになると、どうしても苦しい部分が多くなります。ですので、私はコンクールだけだと足りないと思っていて、その分地域の方々に聴いていただけるような所でのびのびと、幕総のサウンドを大事にしながら、上手くブレンドが出来ない音色があっても声を出すことを最優先したり、とにかく歌う事が嫌いにならないようにというのが大事かなと思っています。

 特に一年生なんかは、コンクールとは関係ない本番が続くこともありますので、その期間はとにかくのびのび歌いなさいと。 ただそれだけではなく ”聴くこと” も大事だよと、主張することも大事なんだけれども聴くことも大事、聴けばブレンドできることにも近づくからということは言い続けてきました。 コンクール練習が本格化して来た時には、それまで以上に聴くことであったり、主張の仕方であったり、そういった細かい部分を詰めながら、少しコンクールらしい練習を取り入れていきます。

 

黒川 今の先生のお話を聞いていて思い出した話があるのですが、日本の合唱団は「聞きなさい」というと自分の主張を引っ込めて周りに合わせだしてしまうという事があると思います。日本人の国民性として、例えば何かの会議とかミーティングの場で人の話を聞きなさいと言われると「あなたは色々自分ばかり喋っているよ」という言い方に聞こえる場合があると思うんです。

 欧米人達は、「私は主張をするけど、私が主張すると言う事はあなたの話もちゃんと聞くという事。私はイエス or ノーの意見を持っているけど、あなたがもし私の意見を受け入れなくても、受け入れないということを私は認めますよ」と、自分も主張をするし、だからこそしっかり聞くという “対話” をします。それが日本だと、聞きなさいと言うと、あんたは黙りなさいという風に捉えられてしまう。それが日本と欧米の合唱団の違いだという話を聞いたことがありまして。

 日本の合唱団はサウンドをブレンドさせる為に、自分の事を引っ込めちゃうんですね。主張しなくなって。そうすると表面的には綺麗なんですけれども、欧米の合唱団とは違う種類のブレンドになる。やはりコーラスは欧米から入ってきた文化ですので、我々日本人が持っているメンタリティとかと異なる部分があって、クラシック音楽・欧米の文化としてのコーラスを我々日本人が行うためには、主張することと聞くことのバランスを整える必要があるのだと、先生のお話しをお聞きして自分の中で繋がる部分がありました。

 

伊藤 生徒一人ひとりでも違うんですよね。主張が出来る子と、どうしても一歩後ろに下がってしまう子がいると思うんです。そういう意味では、やはり一人ひとりの生徒の個性であるとか、そういったところも見抜きながら、一人ひとりに対して、適切なアドバイスをするという時も大事なことだと思います。

 特に二、三年生になってくれば接点も増えますし、一年生が入ってきた数ヶ月は、すぐには一人ひとりの個性まで見抜くということは出来ないので、「合わせ」をしている時間は、非常に緊張もしますけど、新しい発見が出来る楽しい時間でもあります。この子はこういう部分があるんだとか、ただ音楽をしているというだけではなくて、いろんな発見の場として、「合わせ」が機能するといいかなと思っています。

 
DVD第一巻より、黒川和伸先生による指導風景
 

部活動の時間縮小や異動について

黒川 昨今の働き方改革で、部活動の時間が縮小傾向にあるかと思いますが、ハイレベルな部活動かつ時間短縮の流れの中で、伊藤先生が大切にされている事を伺いたいなと思います。

 

伊藤 正直難しいところではあります。やはり練習時間に比例して出来るようになる場合が多いですが、ただ、休む時間がないと生徒たちの気持ちの切り替えやリフレッシュが出来ません。そういった所で、せめぎ合いといいますか、それに近いものは常々感じてはおりました。

 そんな折に働き方改革や新ガイドラインというものが明示されてきましたが、実は幕総は元々そんなに多く練習している訳ではないんです。ただそれでも、その中でよりスリムに時間短縮が出来る、あるいは効率よく練習する、そういった事は、より意識するようになりました。色々な事を整理をして、順序立てて、という事にはやはりそれなりの研究が必要ですよね。なので、そう考えると今回こういう機会を頂けて、非常にコンパクトに整理された形で、時間も明確に見えるようになりました。

 学校の教員は部活だけを出来る訳ではないので、どうしても部活を見れない時間というのもある。そういった所で、生徒たちがいかに効率良く練習をしておいてくれるか、それも凄く大事なことです。とにかく無駄な時間を作らないようにしたいという意識はだいぶ強くなりました。

 

黒川 もう一つお聞きしたいのですが、公立学校の先生には異動が必ず起こり得ますよね。その中で伊藤先生は、幕張総合高校という、合唱の強豪校に赴任されましたよね。おそらく日本全国のDVDをご覧になる先生達の中にも強豪校を引き継ぐ事になった、もしかすると我々よりももっと若い先生がいらっしゃるかなと思うんです。その先生方に、エールであったり、私はこのようにしていますというようなお話をお聞きしたいなと。

 

伊藤 私自身長く合唱に関わってきており、高校の教員になったきっかけも、自分が高校生の時に良い経験をして、それを継続して味わい続ける為にはこの世界に入るしかないというのがあったんです。なので、正直幕張総合と言われた時には、プレッシャーが大きくて、という部分は確かにありましたけれど、ただある意味夢が叶う場所でもあるというところで、前向きに捉えていこうと思ったんです。

 当然そういう中で、実績が保てなくなったらどうしようという不安を常に抱えておりますけれど、そればっかりに終始してしまうのは、音楽をやる人間としてはちょっと違うのかなと。真剣に音楽が出来る環境が目の前にあって、それを日々積み重ねていけるんだと。そちらに強く価値を見出していかなきゃいけない、プレッシャーに負けるのはいけないなと思っています。

 あと、合唱を初めて指導される方がよく仰るのは、どう指導していいのか分からないということ。ただ音楽は生き物ですし、 生徒も生身の人間でそれぞれ個性があるので、 とにかく自分自身の良いと思うものをちゃんと持って、それを再現するためにはたくさん試行錯誤していいと思うんです。「こうしなきゃいけない」とかいうのではなく、毎日の積み重ねの中で、こうしたらこう良くなったとか、そういうことに対して前向きな気持ちになれる、発見出来ることが嬉しいという気持ちで、関わっていけるといいんじゃないかな思います。

 私自身そう思いながら、歴代の諸先輩方がされてきた事を、紐解くのも楽しいというか、こういう風にされてきたんだ、これは取り入れてみよう、そういう常に新しいものを発見できる新鮮さみたいなものを持って向き合うことが、活動の活性化にもなるのかなと思っています。それに実績がついてくるものだろうという様に、感じながら幕総で仕事しております。

 

黒川 幕張総合高校の合唱団の創設者が、伊藤先生の恩師の先生とお聞きしましたのですが、幕総に赴任されるにあたって、その先生からの何かアドバイスみたいなものはあったのでしょうか?

 

伊藤 私の恩師は、高校時代からそうだったんですけれども、アドバイスってあまりなさらない方だったんです。その代わり自分を見て学べと、音楽は学ぶものではなくて、真似るものだからと。だから、自分を見ろと、常にそう仰っていました。そういったこともあって、恩師の合唱団で勉強させてもらったりしてきました。ただ実は私自身、幕張総合が出来て2年目から3年目に、非常勤講師をしておりまして、それもあって恩師の思い入れの強さも分かっていたので、決まった時に電話でご報告をしたんですが、せっかくチャンスを貰ったんだから、一生懸命やりなさいといった言葉をいただいただけで、具体的にこうしなさいああしなさいということは、やはり仰らなかったんです。

 

黒川 そうだったんですね。ついでに僕自身の話をしますと、僕は千葉県の中で一般の合唱団を立ち上げて指揮をする時に、千葉県を代表する合唱団を持たれてる伊藤先生の恩師の先生に、直接コンクールの会場で、上手くいかないのでどうしたら上手くいきますかとお聞きしたところ、「まずは続けることだよ。5年10年行ってごらん。そうすると見えてくるものがあるから」と。何処の馬の骨ともわからない若造が、急にどうしたらいいのかと聞いたのに対して凄く温かいアドバイスをして下さって、その後もコンクールで毎回お会いする度に、色々お話を伺ってるんですけども、やはりそのように高校時代に薫陶をうけていない同じ県内の人間もお人柄とか音楽に触れることで凄く学びを得ているので、そういう意味では、同じシンパシーを感じています。

 


 いかがでしたでしょうか?超超ロングインタビューですが、黒川先生、伊藤先生それぞれのお考えがよくわかるお話しだったかと思います。黒川先生、伊藤先生誠にありがとうございました!
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