NEW!!【合唱 vol.2】黒川和伸先生×幕総・伊藤善教先生

 現在、自身が指揮を務める合唱団・VOCE ARMONICAで数々の賞の受賞経験がある黒川和伸先生。そして名門・千葉県立幕張総合高校合唱団の顧問を務める伊藤善教先生。12月2日に発売となった「誰にでもできる!毎日30分からの発声練習」にご協力いただいたお二人に、コンクールや初心者指導、部活動の時間縮小や異動について伺いました。


コンクールに向けて気を付けていること

伊藤 声のコンディションを保ち続けるという事はとても大事なことで、例えば、冷房があったり、色々便利なものがあったりする中で、コンディションを崩してしまう生徒が結構多くいます。そういった日々のコンディション作り、声のコンディションであったり体調であったりを調整するにあたって、大切なことや喉をどのように守っていくか、何かアドバイスがあれば教えて頂けたらと思います。

 

黒川 例えば、テノール歌手のマリオ・デル・モナコは、とても沢山お酒を飲んでいましたが、公演前は一滴もお酒を飲まず、誰ともしゃべらずみたいな逸話があったり、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウが日本にツアーに来た時には、梅雨の時期だったため、普段とコンディションを合わせるためにすぐに空調をホテルの人に注文したりしたそうです。
 「歌はコンディションが大切」というのは、声楽家の人達が言う事なんですけども、 突き詰めていったときに何がコンディションに影響するのかというと、やはり演奏に向かう優先順位の高さと言いますか、その演奏を素晴らしいものにしたいという ”演奏家の意思” だと思います。
 ですので、同じ位のコンディションで、同じ部屋で、同じ歌を歌っていても、本番に対して凄くモチベーションが高くて、本番を絶対に成功させたい、少しでも良い演奏を聴いて下さる方へ届けたい、と思う歌い手は、プロであってもアマチュアであっても、本番に向けてしっかりとコンディションを調節していくと思うんです。 一方で、本番に向かう意識が弱い場合だと、どうしてもそういった方と比べてコンディションを崩してしまう事が多いです。

 大学時代の歌の師匠に「コンディション作りも実力の内です」と言われました。声楽科だと歌の試験が午前中に始まるかもしれないし、もしかしたら風邪を引いてしまっているかもしれない。 でも、その中でベストの演奏が出来るところも含めて実力なんですよ、という事を言われまして、学生の時にはそんな事言われてもと思っていたんですけども、社会に出て色々なプロの方とご一緒したり、自分自身もコーラスの指揮で演奏の現場に携わるようになってくると、ああ、このコンディション作りというのも確かに実力の内だなと。
 演奏へのモチベーション、優先順位の高さが実力として表れているのと思うと、そういった面も含めて幕張総合高校合唱団は凄いと思います。集中力も高いですし、体調の管理も素晴らしいと思います。

 

新しく合唱団に入ってくる人に教える際のポイント

黒川 小学生や中学生、新しく始める高校生もそうなんですけれども、初めてその学校で本格的なコーラスをするという時には、良くも悪くも白紙の状態で入ってくるので、手もかかりますが、その分教えやすいです。本当にゼロからですね、一から手取り足取り教えることで、確実に技術を身につけさせてあげらます。しかしそれが大人の合唱団となると、特別なOB・OGの合唱団でなければ、色々な場所から歌いに来ますので、もちろん良いところもありますが、そこまでの合唱経験での癖とかがあるので、私自身は、どちらかというとまっさらな状態で指導する方が、手もかかりますけれど楽といえば楽なんです(笑)

 そういったことを踏まえて、初心者より少しかじっていたり、ある程度発声を習得しているとなった時の方が、教え方は特に気をつけますね。 実際、幕総の合唱団でも高校から合唱を始める生徒さん、 県内だけでなく県外からも幕総で合唱がしたくて入ってくる生徒さんもいらっしゃると思うんですけど、その辺のご指導のコツがあれば聞かせていただけますか?

 

伊藤 コツと言うよりむしろ苦労になってしまうかもしれませんが、まさに今黒川先生がおっしゃった通りですね。 経験者の子はそれぞれ体験してきたことがあって、それが非常に良い体験であったから続けていると思う訳で、その積み重ねてきた体験を否定することは絶対にしてはいけない、というのは思っています。 ただ、幕総の中で作ろうとしているものと違う部分も当然あるので、その辺のところは本当に気をつけて、プライドを傷つけないように言葉を選んでというようにしています。

 生徒の中には、白と黒しかない、これは正しいこれは正しくない、この先生の言ったことは正しいこの先生の言ってることは正しくない、といった考え方を持っている生徒も結構います。こっち側にはこういう良いことがあって、こっちにはこういう良いことがあって、だからこの場ではこっちを使っていこうとか、そういう形で生徒が色々な価値観に対して理解を示せるように、経験者に対しては丁寧に話をしていきながら声を作っていきます。 もちろん初心者で入ってくる子もたくさんいるので、憧れて入って来てくれた子には、やはり憧れが無くならない様に話をしながら指導します。

 初心者はコンクールの練習ばかりになると、どうしても苦しい部分が多くなります。ですので、私はコンクールだけだと足りないと思っていて、その分地域の方々に聴いていただけるような所でのびのびと、幕総のサウンドを大事にしながら、上手くブレンドが出来ない音色があっても声を出すことを最優先したり、とにかく歌う事が嫌いにならないようにというのが大事かなと思っています。

 特に一年生なんかは、コンクールとは関係ない本番が続くこともありますので、その期間はとにかくのびのび歌いなさいと。 ただそれだけではなく ”聴くこと” も大事だよと、主張することも大事なんだけれども聴くことも大事、聴けばブレンドできることにも近づくからということは言い続けてきました。 コンクール練習が本格化して来た時には、それまで以上に聴くことであったり、主張の仕方であったり、そういった細かい部分を詰めながら、少しコンクールらしい練習を取り入れていきます。

 

黒川 今の先生のお話を聞いていて思い出した話があるのですが、日本の合唱団は「聞きなさい」というと自分の主張を引っ込めて周りに合わせだしてしまうという事があると思います。日本人の国民性として、例えば何かの会議とかミーティングの場で人の話を聞きなさいと言われると「あなたは色々自分ばかり喋っているよ」という言い方に聞こえる場合があると思うんです。

 欧米人達は、「私は主張をするけど、私が主張すると言う事はあなたの話もちゃんと聞くという事。私はイエス or ノーの意見を持っているけど、あなたがもし私の意見を受け入れなくても、受け入れないということを私は認めますよ」と、自分も主張をするし、だからこそしっかり聞くという “対話” をします。それが日本だと、聞きなさいと言うと、あんたは黙りなさいという風に捉えられてしまう。それが日本と欧米の合唱団の違いだという話を聞いたことがありまして。

 日本の合唱団はサウンドをブレンドさせる為に、自分の事を引っ込めちゃうんですね。主張しなくなって。そうすると表面的には綺麗なんですけれども、欧米の合唱団とは違う種類のブレンドになる。やはりコーラスは欧米から入ってきた文化ですので、我々日本人が持っているメンタリティとかと異なる部分があって、クラシック音楽・欧米の文化としてのコーラスを我々日本人が行うためには、主張することと聞くことのバランスを整える必要があるのだと、先生のお話しをお聞きして自分の中で繋がる部分がありました。

 

伊藤 生徒一人ひとりでも違うんですよね。主張が出来る子と、どうしても一歩後ろに下がってしまう子がいると思うんです。そういう意味では、やはり一人ひとりの生徒の個性であるとか、そういったところも見抜きながら、一人ひとりに対して、適切なアドバイスをするという時も大事なことだと思います。

 特に二、三年生になってくれば接点も増えますし、一年生が入ってきた数ヶ月は、すぐには一人ひとりの個性まで見抜くということは出来ないので、「合わせ」をしている時間は、非常に緊張もしますけど、新しい発見が出来る楽しい時間でもあります。この子はこういう部分があるんだとか、ただ音楽をしているというだけではなくて、いろんな発見の場として、「合わせ」が機能するといいかなと思っています。

DVD第一巻より、黒川和伸先生による指導風景

部活動の時間縮小や異動について

黒川 昨今の働き方改革で、部活動の時間が縮小傾向にあるかと思いますが、ハイレベルな部活動かつ時間短縮の流れの中で、伊藤先生が大切にされている事を伺いたいなと思います。

伊藤 正直難しいところではあります。やはり練習時間に比例して出来るようになる場合が多いですが、ただ、休む時間がないと生徒たちの気持ちの切り替えやリフレッシュが出来ません。そういった所で、せめぎ合いといいますか、それに近いものは常々感じてはおりました。

 そんな折に働き方改革や新ガイドラインというものが明示されてきましたが、実は幕総は元々そんなに多く練習している訳ではないんです。ただそれでも、その中でよりスリムに時間短縮が出来る、あるいは効率よく練習する、そういった事は、より意識するようになりました。色々な事を整理をして、順序立てて、という事にはやはりそれなりの研究が必要ですよね。なので、そう考えると今回こういう機会を頂けて、非常にコンパクトに整理された形で、時間も明確に見えるようになりました。

 学校の教員は部活だけを出来る訳ではないので、どうしても部活を見れない時間というのもある。そういった所で、生徒たちがいかに効率良く練習をしておいてくれるか、それも凄く大事なことです。とにかく無駄な時間を作らないようにしたいという意識はだいぶ強くなりました。

 

黒川 もう一つお聞きしたいのですが、公立学校の先生には異動が必ず起こり得ますよね。その中で伊藤先生は、幕張総合高校という、合唱の強豪校に赴任されましたよね。おそらく日本全国のDVDをご覧になる先生達の中にも強豪校を引き継ぐ事になった、もしかすると我々よりももっと若い先生がいらっしゃるかなと思うんです。その先生方に、エールであったり、私はこのようにしていますというようなお話をお聞きしたいなと。

 

伊藤 私自身長く合唱に関わってきており、高校の教員になったきっかけも、自分が高校生の時に良い経験をして、それを継続して味わい続ける為にはこの世界に入るしかないというのがあったんです。なので、正直幕張総合と言われた時には、プレッシャーが大きくて、という部分は確かにありましたけれど、ただある意味夢が叶う場所でもあるというところで、前向きに捉えていこうと思ったんです。

 当然そういう中で、実績が保てなくなったらどうしようという不安を常に抱えておりますけれど、そればっかりに終始してしまうのは、音楽をやる人間としてはちょっと違うのかなと。真剣に音楽が出来る環境が目の前にあって、それを日々積み重ねていけるんだと。そちらに強く価値を見出していかなきゃいけない、プレッシャーに負けるのはいけないなと思っています。

 あと、合唱を初めて指導される方がよく仰るのは、どう指導していいのか分からないということ。ただ音楽は生き物ですし、 生徒も生身の人間でそれぞれ個性があるので、 とにかく自分自身の良いと思うものをちゃんと持って、それを再現するためにはたくさん試行錯誤していいと思うんです。「こうしなきゃいけない」とかいうのではなく、毎日の積み重ねの中で、こうしたらこう良くなったとか、そういうことに対して前向きな気持ちになれる、発見出来ることが嬉しいという気持ちで、関わっていけるといいんじゃないかな思います。

 私自身そう思いながら、歴代の諸先輩方がされてきた事を、紐解くのも楽しいというか、こういう風にされてきたんだ、これは取り入れてみよう、そういう常に新しいものを発見できる新鮮さみたいなものを持って向き合うことが、活動の活性化にもなるのかなと思っています。それに実績がついてくるものだろうという様に、感じながら幕総で仕事しております。

 

黒川 幕張総合高校の合唱団の創設者が、伊藤先生の恩師の先生とお聞きしましたのですが、幕総に赴任されるにあたって、その先生からの何かアドバイスみたいなものはあったのでしょうか?

 

伊藤 私の恩師は、高校時代からそうだったんですけれども、アドバイスってあまりなさらない方だったんです。その代わり自分を見て学べと、音楽は学ぶものではなくて、真似るものだからと。だから、自分を見ろと、常にそう仰っていました。そういったこともあって、恩師の合唱団で勉強させてもらったりしてきました。ただ実は私自身、幕張総合が出来て2年目から3年目に、非常勤講師をしておりまして、それもあって恩師の思い入れの強さも分かっていたので、決まった時に電話でご報告をしたんですが、せっかくチャンスを貰ったんだから、一生懸命やりなさいといった言葉をいただいただけで、具体的にこうしなさいああしなさいということは、やはり仰らなかったんです。

 

黒川 そうだったんですね。ついでに僕自身の話をしますと、僕は千葉県の中で一般の合唱団を立ち上げて指揮をする時に、千葉県を代表する合唱団を持たれてる伊藤先生の恩師の先生に、直接コンクールの会場で、上手くいかないのでどうしたら上手くいきますかとお聞きしたところ、「まずは続けることだよ。5年10年行ってごらん。そうすると見えてくるものがあるから」と。何処の馬の骨ともわからない若造が、急にどうしたらいいのかと聞いたのに対して凄く温かいアドバイスをして下さって、その後もコンクールで毎回お会いする度に、色々お話を伺ってるんですけども、やはりそのように高校時代に薫陶をうけていない同じ県内の人間もお人柄とか音楽に触れることで凄く学びを得ているので、そういう意味では、同じシンパシーを感じています。

 


 いかがでしたでしょうか?超超ロングインタビューですが、黒川先生、伊藤先生それぞれのお考えがよくわかるお話しだったかと思います。黒川先生、伊藤先生誠にありがとうございました!
 そんなお二方にご協力をいただいたDVD、ご興味のある方は是非、一度詳細ページをご覧ください!

 


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NEW!!【合唱 vol.1】市立松戸高校・小倉孝勇先生

 小倉孝勇先生は、長年、千葉県の公立中学校で合唱部の指導を務め、数々のコンクール出場・金賞受賞を経験されています。現在はその豊富な指導経験を活かし、同県の公立高校である松戸市立松戸高校にて教鞭を執られております。

 昨今、合唱だけに限らず、様々な業界でノウハウの継承が問題となっています。小倉先生ご自身も、長年培ってこられた技術を次世代に伝えきれていないと感じ、今回の撮影にご協力をいただきました。今作はそんな小倉先生の「特別なことはひとつも行っていない。このDVDをご覧いただいて、少しでも若い指導者の方や、指導に行き詰っている方の一助になれれば嬉しい」という思いを存分に収録。そして、このページでは本編Disc2のインタビューでは紹介しきれなかった小倉先生の特別インタビューの模様を紹介しています。それではご覧ください!

コンクールや文化活動での選曲について

― 小倉先生の考える、コンクール自由曲の選曲のポイントについて教えてください。

 コンクールの自由曲では、選曲がとても大切になってきます。選曲をする場合に、今は沢山の動画、演奏が動画サイト等にアップされているので、そういう中で沢山の曲を知っていく事も大切です。しかし「あの学校があの曲をやって良い成果が出たからその曲をやろう」という発想で選ぶと、上手くいかない事が結構あります。なぜかというと、それぞれの合唱団によって特徴が違うからです。この特徴にあった曲を選曲していくというのは、実は合唱部の活動の中でも最も難しい部分のひとつだと思います。

 生徒と一緒に選曲をしていく、あるいは指揮者である顧問の先生が選曲をしていくなど、いろいろなパターンがあると思います。どちらにしても、自分達の今年度のメンバーで表現出来る曲、あるいはこの表現だったら自分達でもやり易い、それから生徒達が共感出来る、そういった点で曲目を選んでいくことが、とても大切かなと思います。

 この曲が無難だなみたいな事については、生徒が必ずしも共感できるか分からないという問題が出てきますので、先生方のレパートリーの中で選ぶのではなく、生徒に合った曲をレパートリーとして与えるというのが良い選曲かなと思います。先生方の持っている曲の中から、今年はコレ、今年はコレみたいな、いわゆるレパートリーの使い回しよりは、今年度この子達に合った曲はなんだろうという事から先生方も一緒に考えていくのが、私の考える選曲のポイントです。


― 文化祭のどの文化活動ではどのように選曲されていますか?

 現代の生徒達は、他者からの評価というのを気にしています。SNSでも「いいね」が付けば嬉しいなど、そういったものを求めています。学校のメインイベントである文化祭で発表し、友達から良かったよと言われることは、生徒にとってとても嬉しいことです。

 「いいね」を貰うためにはどういう選曲がいいのかな? どんな演奏がいいんだろう? といった視点で選曲をすることがとても大切です。文化祭とか発表会で良い発表をすると、それを聞いた今まで合唱に興味がなかった生徒も、合唱に興味がわくことがあります。あるいは、見に来ている中学生や小学生が「ああ高校生だとあんな事やるんだな」「高校に入ったらやってみたいな」となる事もあります。
 生徒達は認められたいという気持ちがたくさんあります。ですので、そういった中で生徒が輝けるような選曲を考えていくというのは、とても大切だと思います。演奏の内容も勿論ですが、良い曲を選んであげることによって、練習に熱が入って良い出来栄えになるということは、学生達の間ではよくあることです。

 生徒がいいなと思う曲やアレンジ、今演奏したら聞いてくれてる人達が喜ぶのではないかという曲、それからスタンダードナンバーに道具や振り付けといったちょっとした工夫を加えて、色々な楽器でのアレンジを加えていくことによって、見る人達を新鮮な気持ちにさせる。そういった選曲がとても大切ではないかと考えています。



「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」

― 新しいガイドラインについて、先生の考えをお聞かせください。

 今、学校現場では、働き方改革、あるいは生徒の部活動の負担軽減という事で、文化庁から部活動に関するガイドラインが示されています。これは、罰則があったりとかそういった事ではなく、あくまでも「ガイドライン」という形になってはいるのですが、実際このガイドラインの中で部活動をやっていくということは、ある意味とても大切な事だと思っています。

 学校には部活をしに来てる訳ではなく、学業との両立、あるいは人間関係の形成、あるいは自分の個性を伸ばしていくということの為に、学校に通っている訳です。そのため、ある程度このガイドラインを遵守するのは大切な事だと、私も思っております。平日2時間、休日3時間、週11時間以内、色々な数字が出てきています。その一つである平日2時間をどのように利用していくか、これが上手くできるのはかなり練れた合唱団だと思っています。

 どうしても、譜面が配られて、なんとなくわからない状態でパート練習やってとなると、あっという間に2時間が経ってしまいます。しかし、やるべき事が事がハッキリしていたり、譜読みでも本編の中で提案したように順番が決まってたりすると「今日はコレをやろう」「明日はコレをやろう」「三日間でここまでやろう」という計画性が立ってきます。計画性があれば、平日2時間、休日3時間の中でも十分に曲が仕上がっていく。毎日の計画が立てやすいように、先を見通しながら、練習をさせていくということがとても大切です。


― まさに計画的に「凝縮」することがポイントになるということですね。

 2時間=120分。高校生が歌う曲はせいぜい一曲歌っても5分以内です。ですので、2時間という練習時間が短いなという発想ではなく、効率的に練習内容を凝縮していき、より計画性を高くしていくことによって、4時から6時まででもしっかりと成果が上がる練習が出来ると考えています。

 本校も夕方6時15分で練習は終わりにしています。延長はしていません。休日は、練習をする場合としない場合がありますが、基本的には午前中の練習という形で進めています。もちろん行事があったり、コンクールがあったりする場合には、多少延びたりしますが、テスト前とかには一切部活動は行っていません。ですので、年間90日くらいは部活をやらない日があると思います。そういった中で、より効果的に練習出来るようにという点で「計画性」と「効率性」が大切だと思います。今日やる内容をちゃんと示してあげることにより、必ず効果が上がる練習が出来ると思いますので、是非、その部分については生徒のリーダーと教員で、相談しながら練習計画を立てていく事が、このガイドラインをクリアしていく大切な要素になるのではないかと思います。


小倉先生のポリシー・伝えたいこと

― 普段の練習で特に気を付けていることを教えてください。

 発声練習の中で、特に大切にしている事がひとつあります。それは「生徒の喉のコンディションを保っていく」という点です。これは、とても大切な事です。高校野球でも、ピッチャーが球を投げすぎて肘や肩に負担がかかり、最終的に手術をする状況に追い込まれる事が沢山あります。それは、上手な生徒ほど出てくるものです。強い声を持ってる生徒が、毎日のように同じフレーズを何回も歌うという練習を繰り返していくと、同じ部分の声帯が擦れるようになり、そこの部分が腫れて結節が出来たり、酷くなったりするとポリープが出来てしまったりします。完全に固まってポリープになってしまうと、外科手術以外に治る方法がありません。こうなってしまっては、折角持っている声も全て台無しになってしまいます。

 こうならない為にも、生徒の喉のコンディションをいつも健康に保つという指導がとても大切になってきます。私は意図して練習をオフにするということが多くあります。ハードに歌った時、特別にホールで練習した時などは、意識の高い子ほど非常に喉を多く使います。この場合には、次の日をオフにしたり、二日間お休みにしたり、そういったこともよくあります。

 使った喉を休ませる為には、歌わない事しか回復方法はありません。コンクール前だとどうしても、他の学校が毎日練習してるのに自分たちだけ休んだら遅れてしまう、というような精神状態になってきますが、生徒にとっては喉のコンディションが悪い中で歌うのは苦痛でしかありません。教師による指導で喉の調子を見極め、それから「今日はちょっと喉の調子が悪いので、歌わなくていいですか?」ということが気軽に言えるような環境というのを是非作っていただければと思います。これは、若い先生でもベテランの先生でも大切なことだと思っていますし、私の大きなポリシーのひとつでもあります。これを守っていく事によって、効果的な練習がより生徒に定着してくるし、何よりも大きいのは「健康で豊かな声」を作り上げていくことができるという事です。是非、この点を考慮して練習に励んでいただければと思っております。


― 学生は無理をしがちなので、とても大切なことですね。それでは最後に何かメッセージがあればお願いします。

 合唱指導も含め音楽の指導は「音楽の専門家でないと出来ない」「音楽の教員免許が無くちゃいけない」「ピアノが沢山弾けなければいけない」「パッと聞いてその音が何か分からなくてはいけないとか」などなど、色々思われていることがあります。しかし自分自身、そのような特別な力は一切持っていません。今はスマートフォンをはじめ色々な機材があります。それから先輩の先生方もいらっしゃると思います。是非若い先生方には、積極的に音楽活動を生徒と一緒に取り組んで喜びを味わってもらえればと思います。

 中にはカリスマと呼ばれている先生もいるかも知れません。あの先生は凄いと言われる先生もいるかも知れません。自分は特別なこと、あるいは音楽を上手くする秘訣みたいな秘伝の技を持っている訳でもないです。基本的な事を、生徒が嫌がらずに、楽しんで好きになるということをコンセプトにやっています。「好きこそ物の上手なれ」という言葉がありますが、音楽については特にそれが大切だと思っています。生徒が楽しめる指導を、是非若い先生方も取り組んで、生徒の素晴らしい歌で、自分達も感動出来るようなそんな体験を若い先生にしていただければと思います。


小倉先生、貴重なお話を誠にありがとうございました!
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NEW!!【M94】表現力を高める!ハンドサインと階名唱を用いた合唱指導法

◎「音の形」をハンドサインで理解する!

◎各音の「性格」で音楽表現を高める!


 部員数0名の状況から僅か3年で中部大会へと出場、その3年後には全国大会最高賞を獲得した西南部中学校合唱部。本作ではその西南部中学校合唱部顧問の稲垣潤一先生による「ハンドサイン」「階名唱」を主軸にした指導法を紹介しています。
 音、言葉、発音。合唱の基本的な要素のひとつひとつの表現を丁寧に作りあげる稲垣先生の指導をぜひご覧ください!


◆◇ 内容紹介 ◇◆

 ハンドサインと階名唱を練習に用いる事で、音の高さを正確に理解するだけでなく、各音の「性格」やエネルギーを最大限に楽曲に落とし込むことができます。またそれによって、言葉や発語の一音一音をより丁寧に、より豊かに表現することができるようになるのも特徴です。

■イントロダクション/毎日の練習の流れ
■発声を意識した基礎練習
■ハンドサインと階名唱
■音を正しく歌う練習(使用楽曲『オデコのこいつ(作詞:蓬莱 泰三/作曲:三善 晃)』)
■フレージングの処理
■言葉の処理(発語の練習)
■音楽と言葉(詩)の関連性
■まとめの全体練習/全体練習を受けたパート練習




◆◇ 稲垣潤一先生 特別インタビュー!◇◆


DVD本編には収録しきれなかったインタビューを特別公開!

■気をつけている指導のポイント
■パートリーダーの選び方
■生徒の自主性の引き出し方
■生徒との距離感の取り方





◇指導・解説/稲垣 潤一 (金沢市立西南部中学校 合唱部 顧問)

 2011年、金沢市立西南部中学校に赴任。部員数0名の合唱部を立て直し、赴任6年目の第69回全日本合唱コンクール全国大会にて、全国大会初出場で同声の部・金賞を受賞。また第71回大会で再び金賞を受賞し、特別賞として石川県内初の最高賞・文部科学大臣賞を受賞した。

◇実技協力/石川県金沢市立西南部中学校 合唱部




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